知多半島の山車彫刻  
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山車彫刻

 

「山車彫刻」
■建築における装飾彫刻
■山車彫刻の流れ
■彫物師の系譜
 ・立川一門
 └ その他の立川流
 ・彫長一門
 ・瀬川一門
 ・その他の彫刻師

 

 立川常蔵昌敬

 本姓は宮坂氏。富平、富昇とも号す。母は初代和四郎の女「みち」である。
 文政二年(一八一九)、十六歳の時に立川一門の一大事業であった浅間神社造営に従事する。この時に二代和四郎に認められ、富昌の長女「とみ」を娶ることになる。昌敬は義父である富昌の手足となり活躍する。山車彫刻における富昌作の彫刻はほとんどが昌敬との合作といってよい。
 昌敬独自の山車彫刻としては天保九年(一八三八)の下半田唐子車壇箱「唐子遊び」、脇障子「手長足長」がある。また天保十三年には常滑市大谷の蓬莱車壇箱「唐子遊び」、脇障子「関羽と張飛」がみられる。この山車には立川流得意の彫刻「粟穂に鶉」が前山虹梁上にある。唐子車の「手長足長」らは山車彫刻として最高傑作の一つであろう。昌敬作に唐子が多いのは、人柄が穏やかで子供好きな性格によるのであろう。二代和四郎富昌が鋭く厳しいのと対象的だ。二人の作の力神を比較して見てみたい。
 昌敬の作品の最高傑作は豊川稲荷の造営であろう。文化七年(一八一〇)から安政四年(一八五七)に及ぶ大工事であったが、富昌は後見にまわり、悉くを昌敬に任せている。それだけ昌敬に対する信頼度が知れよう。
 昌敬は文久三年(一八六三)八月二十一日に亡くなる。五十八歳。墓は諏訪市の教念寺に建つ。 △上へ

 立川専四郎

 富昌の次男で富種という。琢斉と号す。二代和四郎富昌の晩年は、専四郎を伴い諸国の仕事に出かけたという。それだけ立川流の将来を専四郎に託していたのかもしれない。父に代わって手がけた彫刻も多いという。
 富昌が構成の妙で力量感ある彫刻にしたのに対して、富種の彫刻技法は刀法を重んじ、ややもすると鋭利すぎる鑿痕を残す。動的なものをより強調した。彼は「彫刻の生命は鋭りなる彫刀の運用なり」と語ったという。
 明治二十年(一八八七)没す。七十二歳。 △上へ


その他の立川流彫物師 

 二代和四郎が力神車を建造したことにより、尾張の彫物師が多大な影響を受けたことは、その後の装飾彫刻に顕著にあらわれる。おそらく噂を耳にした各地の彫物師や、祭り好きな人々が亀崎の潮干祭を訪れたであろう。常滑市大谷村の代表が評判を聞いて亀崎を訪れ新しい山車建造を依頼した話が、当時の人々の気持ちを伝える代表的な例であろう。
 彫物師や宮大工ならなおさら、一見に値する彫刻を自ら眼にして驚いたと思われる。こういった人々、または
立川和四郎の山車建造に従事した地元の大工が立川一門に門弟として師事したことであろうことは推察できる。立川一門を名乗るが、それが自称であるか定かでない。 △上へ

 立川角三郎

 力神車建造に和四郎と共に直接携わった横松村の宮大工岸幕一門にとって新鮮な驚きは想像に難くない。特に若い者は当然ながら影響を受ける。岸幕一門の角三郎は立川一門に弟子入りしたか、自称かわからないが安政六年(一八五九)乙川宮本車を三代和四郎が手がけたとき脇障子と前山鮮魚の「牛若と烏天狗」に立川角三郎と音吉の名がある。乙川に香取社という小さな神社がある。ここに稚拙ながら立川流得意の「粟穂に鶉」の彫刻がみられる。彼の作かと思われる。
 武豊町小迎鳳凰車に立川鬼子郎の名がある。前山奥虹梁蟇股「唐獅子」裏に岸川鬼子とある。これらの資料から同一人物であろうことが推測される。岸幕善兵衛の子の岸幕角三郎が三代和四郎富重に師事したか、自ら立川姓を名乗ったものと思われる。
 阿久比の宮津北車の鮮魚と大古根八幡車の檀箱「力神」が岸幕角三郎の作である。初代彫常が立川流彫刻を見事なまでに再現したのと比べて、立川の名を名乗るにしてはあまりにも見劣りがするのは否めない。 △上へ

 中野甚右衛門重富

 美浜町上野間に立川一門を名乗る大工がいたことは知られている。常滑市坂井の東光寺鐘楼の力神に「信州諏訪立川和四郎富昌門人 上野間 中野甚右衛門重富」と墨書されている。武豊町鳳凰車に鬼子郎(角三郎)とともに立川姓でのる。富貴の山車の檀箱「力神」も彼の作である。
 常滑市坂井、美浜町上野間の二台の山車、南知多町内海の内福寺の山車、いずれも立川流の彫刻を施している。甚右衛門と何らかの関わりがあるのかもしれない。
 まだまだ探れば、立川関係の山車が発見されていくであろう。知多半島の村々隅々まで名人和四郎の名が、左甚五郎ほどの伝説的人物として喧伝されていたことは凄いことである。『知多半島のからくり人形』でも感じたことだが、当時としては最高の彫刻を施した山車が、半島の小さな村々に存在したということは、知多半島の豊かさに改めて驚くほかない。 △上へ

 
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